「十年(とうねん)」日記 その4


12/29は「十年」の最終営業日

ここんとこ、年末と年始には必ずご挨拶に寄ることにしている。今年は、12/29が土曜日とあって、すでに休みに入っている会社が多いのか、19:30になっても、僕の他に客の来る気配もない。聞けば、昨日(とゆーか今朝)は四時まで客が絶えなかったそうで、始発で帰るハメになったとのこと、客商売とはいえ、ホントニごくろうさまである。客が来ないとゆーのは、店にとっては困ったことだが、僕にとってはマスターとゆっくり話ができる願ってもないチャンスである。今宵は、タクシーの運転手のマナーについてひとくさり、話をする。

行き先を告げても黙りこくってる運ちゃん、目的地に近づいてきたんで目印を指示すると「そんなん言われんでも、わかってるわ」などとのたまうタワケ者。こんな態度の悪い運転手にあたったら名前と登録番号をチェックして、 陸運局に文句を言うのが一番なんだそうである。「実際やったことはないけど、そんくらいの腹づもりはしてるよ」、とはマスターの弁。この人、カウンターの中ではとても人当りの良いニコニコした人だが、なかなかどうしてヘンコツなおっさんである。

黙りこくってる運転手に腹をたてて、車を止めさせて、プイッと降りてしまったこともあるそうだし、「ふだんは、十年のマスターいつでも乗ってや、なんて言ってるのが、深夜にタクシーつかまえようとしたら、目の前をしらん顔で通りすぎよった。あそこの車だけは、二度と乗ったらへんねん」と言う話も、いかにもこの人らしい。

八時をまわると、マスターの予想とは反し、今日もボチボチと混みだしてきた。左の二人連れはお得意様との忘年会の後、右の三人連れはバーボン初心者で、どっかの雑誌を見て来たという類である。これだけで、店はもういっぱい。あと二人分くらいの席しか空いていない。「もう少し広けりゃ、いいんですけどねぇ」と言うと、「そおやねぇ、今のとこで改装するんだったら、もおちょっと引っ込んだとこでもいいから、四・五人座れるテーブルが置けるくらいのとこに移った方がいいと思ってます。」とマスターの答えである。

ホント、この店の弱点は「狭い」ことと「勘定が遅い」ことだけ。キチンと酒の飲める仲間と来たいんだけど、三人だともう「チト無理かな」って思ってしまう。

「でもねぇ新木さん、改装にしても引っ越しにしても、それやったためにお客さんに値段で負担かけたら、なんにもならへんしねぇ」
そうですねマスター、自分の懐で酒を飲んでる、まっとうな酒飲みのためには、今のまんまが一番ええんかもしれませんね。
僕はそう一人ごちて、タンカレーのジントニックを飲み干して、マスターからのボーナスを抱きかかえて、今年最後の「十年」を後にした。

来年の「十年」の営業は1/7から。原価計算がまだで飲ませてもらえなかった、新着バーボンも年明けからは、カウンターに並ぶそうです。来たる年も、工藤マスターが健在で、ますます旨いバーボンを楽しませてくれることを期待して、「十年日記 その4」を了とします。

          雪化粧した富士山を車窓から眺めつつ
              PEA01063 MAX/新木 誠でした

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